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和歌山地方裁判所 平成8年(行ウ)3号 判決 1999年8月31日

原告

川村雅之

被告

和歌山税務署長 武田清明

右指定代理人

黒田純江

山本弘

三田村義信

河野啓

小坂雄二

行平和正

出口源太

豊田周司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告がいずれも平成六年二月二五日付けでした、原告の昭和六三年分ないし平成四年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税の更正のうち別表A「確定申告欄」記載の事業所得の金額及び納付すべき税額を超える部分並びに重加算税賦課決定(但し、平成四年分の更正及び重加算税賦課決定については、いずれも裁決により一部取消後のもの)を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告の行った資産負債増減法による推計に基づく本件係争各年分の原告の所得税の更正等について、原告が、推計課税の必要性、合理性等を争い、その取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、証拠(甲五、乙二三)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。

1  原告は、家庭用電気器具の小売り及びリース業を営む白色申告者(所得税法一四三条所定の青色の申告書でない申告書を用いて税務申告を行う者をいう。)である。

2  原告は、別表A「確定申告」欄に記載のとおり、本件係争各年分の確定申告をしたところ、被告は、平成六年二月二五日、同「更正等」欄記載のとおり、各更正及び各重加算税賦課決定(以下、これらを併せ「本件各処分」という。)をした。

原告は、被告に対し、同年三月九日、本件各処分を不服として異議申立てをしたところ、被告は、同年六月九日、同「異議決定」欄記載のとおり、右申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。原告は、国税不服審判所長に対し、同月二八日、右決定を不服として審査請求をしたところ、同審判所長は、平成七年一一月一七日、同「裁決」欄記載のとおり、平成四年分の更正及び重加算税賦課決定を一部取り消した上、その余の請求を棄却する旨の裁決をし、同裁決は、平成七年一一月二一日、原告に送達された。

二  争点

1  推計課税(所得税法一五六条所定の推計による課税をいう。)の必要性の有無

本件における税務調査(以下「本件調査」という。)方法に違法な点があり、推計課税の必要性が否定されるか。

2  推計課税の合理性の有無

3  原告の実額反証(推計額が真実の課税標準額及び所得税額と相違する旨の反証をいう。)が成功しているか否か。

4  重加算税賦課要件の存否

5  国税通則法七〇条所定の期間制限

三  争点に関する被告の主張

1  争点1(推計課税の必要性)について

(一) 本件調査の経緯

(1) 和歌山税務署国税調査官橋詰勝貴、同小林俊雄及び同上席国税調査官太田和良は、平成五年六月二日、原告宅において、原告に身分証明書及び質問検査章を提示した上、所得税の特別調査のために来訪した旨を告げた。

原告は、橋詰らから、事業概況や帳簿書類の保存状況、確定申告の方法等について聴取調査を受けた上、確定申告の際には、リース売上げや店頭売上げについて記載した取引メモ等(以下、リース売上げについての取引メモを「リース日報メモ」、店頭売上げについての取引メモを「売上メモ」といい、これらを併せて「取引メモ等」という。)に基づかず、仕入金額をもとにして売上金額を推定した上、概算で申告していたこと、確定申告の際に添付した収支内訳書にも、何ら根拠のない金額を記載していたこと、仕入れについての領収書等は、既に破棄したが、リース日報メモ等の一部は、原告宅に隣接した原告店舗に保存している旨を述べた。

橋詰らは、原告の承諾を得た上、調査のため、平成二年分ないし平成四年分のリース日報メモ等を預かった。

(2) 原告は、平成五年六月一一日、原告店舗において、橋詰から聴取調査を受けた際、リース売上げに関する確定申告額等が適正でないこと、収支内訳書作成の際には、現金仕入額を除外するとともに、帳簿書類に基づかないまま、概算で必要経費を記載しており、収支内訳書には、多額の計上漏れがある旨を述べた。

橋詰は、同月二三日、原告に対し、同月二日に預かったリース日報メモ等の一部を返却した。

(3) 橋詰は、同月三〇日、原告に対し、本件係争各年分の所得金額及びその算定方法等、本件調査の結果について説明するとともに、修正申告を求め、同年七月七日にも同旨の説明の上、修正申告を求めたものの、原告は、これに応じなかった。原告は、同日、同人に対し、本件調査によって算定された所得金額を減額するように求めた上、仮に減額が認められないのであれば、更正を希望する旨を述べた。同人は、右減額の理由について説明を求めたものの、原告は、具体的な説明をしなかった。

橋詰は、原告に対し、同月九日、原告から預かっていた書類を全て返却した上、同月一四日、再度、本件調査の結果を説明し、修正申告を求めた。原告は、右調査結果が適正であることを認めた上、修正年分を三年間に限るとともに、重加算税を賦課しない条件ならば、修正申告しても良い旨を述べたものの、同人から拒否された。

(4) 橋詰は、同年一〇月一三日、原告から委任を受けた税理士栗須谷昇治の立会いを得た上、本件調査の結果について説明し、修正申告を求めた。同税理士は、所得金額を三〇〇万円とする修正申告ならば応じるが、同金額以上の修正申告を求めるのならば、更正を希望すること、今後は、税務調査を拒否する旨を述べた。橋詰は、所得金額を三〇〇万円とすべき根拠について説明を求めたものの、原告らは、明確な回答をしなかった。

栗須谷税理士は、平成六年一月二〇日、和歌山税務署国税統括官高林克行に対し、今後、一切の税務調査や修正申告に応じる意思はないので、更正を希望する旨を申し入れた。

橋詰は、同年二月三日、原告に対し、修正申告に応じるか否かについて、同月一四日までに連絡がないときは、更正する旨の方針を伝えたものの、同日までに、原告から何の連絡もなかった。

(二) 右のとおり、原告は、本件係争各年分における取引について、仕入れや売上げ、必要経費等の詳細を記載した帳簿を作成しておらず、取引メモ等を作成し、仕入れについての領収書等を保管していた程度であり、しかも、本件調査の際には、取引メモ等や領収書の一部を破棄し、保存していなかったのであるから、被告は原告の所得金額を実額により計算することができず、推計課税の必要性があった。

なお、本件調査の経緯は、右のとおりであり、橋詰らは原告の承諾を得た上、原告宅ないし原告店舗での現物確認調査を行っており、預かった関係書類も全て返却しているし、修正申告するよう説得したことにも違法な点はなく、本件調査には何ら違法な点はない。

2  争点2(推計課税の合理性)について

(一) 総所得金額

原告の本件係争各年分における総所得金額は、別表1記載のとおりである。

(二) 事業所得の金額の算定方法

(1) 原告の本件係争各年分における事業所得の金額は、別表2の1ないし5記載のとおり、資産負債増減法を用いて推計により算出したものであり、その算式は、左記のとおりである。

事業所得の金額=期末純資産額(期末資産額-期末負債額)-期首純資産額(期首資産額-期首負債額)+調整項目加算額-調整項目減算額

なお、期首資産額は前年の期末資産額と、期首負債額は前年の期末負債額と、それぞれ同額である。また、調整項目加算額は、所得の処分に相当する生活費及び家事関連費等であり、調整項目減算額は、所得の種類が事業所得以外の所得に帰属するもの及び非課税所得等に相当するものである。

(2) 被告は、本件調査の際、原告及び栗須谷税理士の協力を得ることができなかったため、店頭販売に係る売上金額を十分把握できず、また、原告が、現金仕入れや必要経費についての領収書等を破棄して保存していなかったため、仕入金額や必要経費の金額を正確に把握できなかった。

そのため、被告は、本件において、同業者比率法(納税義務者の収入、支出、生産高及び販売高等の数額について、当該納税義務者と同種、同規模及び同程度の同業者を選定し、その差益率、所得率及び経費率等の平均値を算出した上、所得金額等を推計する方法をいう。)を採用せず、資産負債増減法による推計をした。

(三) 事業所得の金額の算定根拠

本件係争各年分における資産、負債、調整項目加算額及び同減算額の各科目について、期首及び期末の金額は、別表2の1ないし5の各欄記載のとおりであり、その詳細は以下のとおりである。

(1) 資産科目

<1> 当座預金科目

当座預金の金額は、別表3のとおりである。

<2> 普通預金科目

普通預金の金額は、別表4のとおりである。

なお、右預金には、川村やすゑ、川村順子及び川村智子名義のものがあるが、これらの預金は、その届出住所や届出印が原告名義の預金と同一であって、いわゆる借名預金であり、原告に帰属するものである。

<3> 定期積金科目

定期積金の金額は、別表5記載のとおりである。

なお、右預金には、川村やすゑ及び川村憲三名義のものがあるが、これらの預金は、その届出住所や届出印が原告名義の預金と同一であって、いわゆる借名預金であり、原告に帰属するものである。

<4> 定期預金科目

定期預金の金額は別表6記載のとおりである。

なお、右預金には、川村やすゑ、川村容子、川村順子、川村智子及び川村憲三名義のものがあるが、これらの預金は、その届出住所や届出印が原告名義の預金と同一であって、いわゆる借名預金であり、原告に帰属するものである。

<5> 有価証券科目

有価証券の金額は、別表7記載のとおりである。

なお、同表記欄の取引口座には、川村やすゑ名義のものがあるが、これらの口座は、その届出住所や届出印が原告名義の預金と同一であって、いわゆる借名預金であり、原告に帰属するものである。

<6> 国債科目

国債の金額は別表8記載のとおりである。

なお、同表記欄の取引口座は、川村やすゑ名義であるが、その届出住所や届出印が原告名義の預金と同一であって、いわゆる借名預金であり、原告に帰属するものである。

<7> 土地・建物科目

土地・建物科目の金額は、原告が平成二年に購入した土地(和歌山市杭ノ瀬字徳江一八三番地の二二)の取得価額である。

<8> 車両科目

車両科目の金額は、原告が事業に使用していた車両についての未償却分の残高であり、その内訳は、別表9記載のとおりである。

<9> 商品科目

商品科目の金額は、原告が、本件係争各年分の確定申告の際に申告した期首及び期末の商品(製品)棚卸高を計上した。

(2) 負債科目

<1> 買掛金科目

買掛金科目の金額は、別表10のとおりである。

<2> 借入金科目

借入金科目の金額は、原告があさひ銀行和歌山支店から借り入れた借入金の残高である。

(3) 調整項目加算額

<1> 生活費科目

生活費科目の金額は、総務庁統計局発行の家計調査年報によって算定したものであり、その内訳は、別表二記載のとおりである。

<2> 住宅金融公庫返済科目

住宅金融公庫返済科目の金額は、別表三の1ないし5記載のとおりである。

<3> 所得税科目

所得税科目の金額は、別表13のとおりである。

<4> 住民税科目

住民税科目の金額は、別表14記載のとおりである。

<5> 固定資産税科目

固定資産税科目の金額は、別表15記載のとおりである。

<6> 社会保険料科目

社会保険料科目の金額は、原告が、本件係争各年分の確定申告の際に申告した社会保険料の金額を計上した。

<7> 生命保険料科目

生命保険料科目の金額は、原告が、本件係争各年分の確定申告の際に申告した生命保険料の金額を計上した。

<8> 支払利息科目

支払利息科目の金額は、原告が、事業に関係しない借入金について支払った利息金額であり、その内訳は、別表一六の1ないし3記載のとおりである。

<9> 有価証券売買損科目

有価証券売買損科目の金額は、別表17記載のとおりである。

<10> 不明出金科目

不明出金科目の金額は、前記(1)の預金の一部が解約され、払い戻されたものの、その出金使途が不明であって、事業上の必要経費等に充てられたと認められないものであり、その内訳は、別表18記載のとおりである。

(4) 調整項目減算額

<1> 預金利息等科目

預金利息等科目の金額は、原告が、前記(1)の預金等について支払いを受けた利息及び配当金であり、その内訳は、別表19(総括表)及び同19の1ないし5(明細表)記載のとおりである。

<2> 有価証券売買益科目

有価証券売買益科目の金額は、別表17記載のとおりである。

<3> 年金収入科目

年金収入科目の金額は、川村やすゑ(原告の母であり、原告と同居していた。)の国民年金の受取金額であり、その内訳は、別表20記載のとおりである。

<4> 店主借科目

店主借科目の金額は、原告が金融機関へ預金したものの、その出所が不明なものであり、その内訳は、別表21記載のとおりである。

3  争点4(重加算税賦課要件の存否)について

原告は、本件係争各年分の確定申告の際、故意に仕入金額の一部を除外した上、同金額をもとに、恣意的に売上金額や必要経費を計上して、殊更に過少の所得金額を記載した内容虚偽の収支内訳書を提出した。また、原告は、仕入れについての領収書等を破棄した上、取引銀行及び証券会社において、川村やすゑ、川村容子、川村順子、川村智子及び川村憲三名義でいわゆる借名口座を開設した上、これを利用して取引を行った。

原告のこれらの行為は重加算税賦課要件としての偽りその他不正の行為に当たる。

4  争点5(期間制限)について

原告は、右3記載のとおり、偽りその他不正の行為により税額を免れたものであるから、その更正は、国税通則法七〇条五項一号により、その更正に係る国税の法定申告期限(各更正とも翌年の三月一五日)から七年を経過する日まで可能であるところ、被告のした各更正は、法定申告期限からいずれも七年以内の日である平成六年二月二五日にされた。

四  争点に関する原告の主張

1  争点1(推計課税の必要性)について

(一) 本件においては、次のとおり、実額による所得の把握は、十分可能であった。

(1) 原告が確定申告の際に申告した所得金額は、三〇〇万円を超えておらず、原告は、所得税法二三一条の二第一項により、帳簿の作成及び保存義務を負わないから、帳簿が作成されていないことを理由に、推計によって課税することは、違法である。

また、原告は、売上げや仕入れ、必要経費等に関する取引資料を作成し、保存しており、本件調査の際にも、橋詰らに対し、右取引資料を交付した。

(2) 原告は、橋詰から聴取調査を受けた際、売上げや仕入れ、必要経費等について具体的に説明し、常に調査に協力した上、同人から、本件調査の結果について説明を受けた際も、商品の売買差益率を再検討するとともに、店舗建物等の減価償却費及び借入金の支払利息について、必要経費べき計上を認めるよう、具体的根拠を示して申し入れていた。

(二) また、本件調査には、次のような違法があり、推計課税の必要性を肯定することができない。

(1) 橋詰は、平成五年六月二日、原告宅及び原告店舗を訪れ、原告の承諾を受けることなく、内部を調査した上、同店舗に保管されていた取引関係の資料の大部分を持ち帰った。

原告らは、その後、右資料の返却を求めたものの、橋詰らは、修正申告をしなければ返却できない旨を返答するなどして、これに応じなかった。

(2) 橋詰は、原告に対し、同年七月初旬ころ、本件係争各年分の所得について修正申告をするように求め、同月一四日にも、再度、修正申告を求めたものの、原告から、これを拒否されたため、拳で机を殴打するなどした上、同年一〇月一三日には、持参した書類を床に叩き付けるなどして、修正申告を強要した。

(3) 橋詰は、本件調査において、連日、原告を和歌山税務署へ呼び出し、執拗な聴取調査を行った上、反面調査(納税義務者との間で取引関係のある第三者に対する調査をいう。)を多数回行った。

2  争点2(推計課税の合理性)について

資産負債増減法による推計を行うに当たっては、当該納税義務者の事業に係る資産、負債、調整項目加算額及び同減算額を正確に把握する必要があるにもかかわらず、本件においては、以下のとおり、原告の財産状況の把握が正確でない。

(一) 借名預金等

普通預金、定期積金、定期預金、有価証券及び国債の各科目のうち、原告名義以外の預金ないし取引口座については、届出住所及び届出印として、原告名義のものと同一の住所及び印影が届け出られているものの、右預金等は、川村やすゑが、昭和五〇年代から、子ないし孫の名義を使用して口座を開設の上、管理していたものであって、原告に帰属するものではない。川村やすゑは、格別の住所及び印鑑を取引銀行等に届け出ると煩雑になるため、便宜上、原告名義のものと同一の住所及び印影を届け出たにすぎない。

(二) 資産

原告店舗の建物及び什器備品、従業員用の社宅並びにリースの電気冷蔵庫及びテレビは、事業用の資産であるにもかかわらず、資産に計上されていない。

(三) 店主借科目

原告は、平成三年九月二〇日、第一生命保険相互会社(以下「第一生命保険」という。)から、原告名義の普通預金口座において、生命保険契約の払戻金合計一六四万八五〇四円の振込みを受けたにもかかわらず、店主借科目に計上されていない。

(四) その他の必要経費

原告は、あさひ銀行から借入れを受けた上、従業員用の社宅として利用する予定で土地及び建物を取得したところ、右借入れに伴う支払利息は、必要経費であって、所得から控除されるべきものであるにもかかわらず、調整項目減算額に計上されていない。

3  争点3(実額反証)について

原告の本件係争各年分における事業所得の金額及びその内訳は、別表B記載のとおりである。

4  争点5(期間制限)について

国税通則法七〇条一項一号は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から三年を経過した日以後においてはすることができない旨を定めているところ、昭和六三年分及び平成元年分の更正は、それぞれ法定申告期限から三年経過後にされており、違法である

第三当裁判所の判断

一  本件調査手続の経緯

争点につき判断する前提として、本件調査手続の経緯につき、検討する。

前記前提となる事実、証拠(甲一の1、2、二、乙二二、三〇、三四の5、五六、証人橋詰勝貴、同栗須谷昇治、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1(一)  和歌山税務署国税調査官橋詰勝貴、同小林俊雄及び同上席国税調査官大田和良は、平成五年六月二日午前九時三〇分ころ、原告宅に赴いた上、原告に対し、身分証明書及び質問検査章を提示し、所得税の特別調査のために来訪した旨を告げ、事業に係る取引について聴取調査を行った。

原告の帳簿書類の作成、保管状況や確定申告の方法は、次のとおりであり、原告は、右聴取調査に対し、同旨の説明をした。

原告は、取引に際し、売上帳や仕入帳、現金出納帳等の取引に関する帳簿を作成しておらず、店頭での小売販売については、現金での仕入れや販売が多いことから、預金通帳によって入出金を管理した上、簡略な売上メモを作成する程度であり、リース売上げについても、簡略なリース日報メモを作成するに止めていた。そして、確定申告に当たっては、仕入れについての領収書を集計して仕入金額を算出した上、同金額をもとに、売上金額及び必要経費等を推定し、概算で申告していた。なお、取引メモ等は、原告宅に隣接する原告店舗に保管されており、仕入れについての領収書は、本件調査の際、一部が紛失したり、破棄されたりしていた。

(二)  橋詰らは、同日午前一〇時三〇分ころ、原告の立会いのもと、原告店舗一階に保管されていた平成五年分の取引メモ等を確認した上、さらに、原告の指示を受けた従業員の立会いのもと、同二階に保管されていた平成二年分ないし平成四年分のリース日報メモ、請求書、領収書の控え並びに顧客及び経費についての伝票等の資料を確認した(なお、平成元年分以前のリース日報メモは、保管されていなかった。)。橋詰らは、原告の了承を得た上、本件調査のため右資料を預かるとともに、原告に対し、預り証を交付した。原告は、その際、橋詰らに対し、調査を制止したり、抗議したりなど一切しなかった。

2  橋詰は、平成五年六月一一日、原告店舗に赴いた上、原告に対し、預かったリース日報メモを調査したところ、平成四年分の確定申告に係る売上金額(一七〇一万四九九八円)について、実際には約四七〇〇万円のリース売上げが確認されるなど、確定申告に多額の計上漏れがあることが判明した旨を告げて、説明を求めた。

原告は、本件係争各年分の確定申告の際、現金仕入れの一部を除外して仕入金額を計上していた。原告は、橋詰に対し、同旨の説明をした上、確定申告に係る売上金額に多額の計上漏れがあることは認めるが、右のとおり指摘された金額ほど多額の売上げがあったとは思えず、リース日報メモには釣銭等が記載されていることから、本件調査の担当者が、誤ってこれらも併せて集計したのではないかと述べた。

橋詰は、原告に依頼し、主要な仕入先から月別の仕入金額等を記載した取引明細書をファックスで取り寄せてもらった上、原告に対し、残存している領収書等に基づいて、正確な必要経費の額を調査するように依頼した。

3(一)  橋詰は、平成五年六月二三日、和歌山税務署を訪れた原告から、平成四年分の経費明細書の提出を受けたものの、同明細書は、必要経費の金額が概算で記載されたものにすぎなかった。同人は、その際、原告に対し、本件係争各年分の正確な売上金額について、聴取調査したものの、原告は、具体的な説明をしなかった。

原告は、その後、独自にリース売上分の集計をしてみたいので、リース日報メモを返却してほしい旨を申し出、橋詰は、受領証を徴した上、平成二年分ないし平成四年分のリース日報メモを返却した。

(二)  橋詰は、平成五年六月三〇日、和歌山税務署を訪れた原告に対し、本件係争各年分の売上げ、仕入れ及び必要経費等の金額について聴取調査を行った上、修正申告すべき所得金額を概算して説明し、同年七月七日にも、原告に対し、同旨の説明をした。同人は、これらの説明の際、原告に対し、度々、仕入れや必要経費等の金額について、具体的な説明をするように求めたものの、原告は、本件については、知人の税理士に相談させてほしい旨を述べるのみで、このような説明をしなかった。

(三)  本件調査の担当者は、同年六月末までの間、取引銀行に対し三件、仕入先に対し一件の反面調査を行った。

4(一)  橋詰は、同年七月九日、原告店舗に赴いた上、原告から預かっていて書類を全て返却し、原告に交付していた預り書の受領欄に原告の署名押印を得て、回収した(原告は、本人尋問において、橋詰らが、持ち帰った関係資料の一部を未だ返却していない旨を供述するものの、右供述は、成立の争いのない乙二二(預り証)及び乙三〇(受領証)の記載内容に反し、到底採用できない。)。

(二)  橋詰は、同月一四日、和歌山税務署を訪れた原告に対し、聴取調査の上、本件調査の結果について、次のとおり、説明した。同人は、修正申告すべき金額の目安として、一応の所得金額を概算することとし、リース日報メモの集計結果や原告から聴取した店舗商品の売買差益率をもとに、売上金額を仮に算出した上、仕入れについての明細書(前記2のとおり原告の取引先から入手したもの)の集計結果や原告から聴取した現金仕入金額をもとに、合計の仕入金額を仮に算出した外、前記3(一)のとおり原告から提出された必要経費の明細書をもとに、必要経費の金額を仮に算出して、所得金額を概算し、原告に説明した。

原告は、橋詰の右説明に対し、修正申告の対象期間を三年分に限定した上、重加算税を賦課せず、過少申告加算税の賦課に止めてほしい旨を申し入れたものの、同人から拒否された。

5  橋詰は、同年一〇月一三日、原告店舗に赴いた上、原告及び原告から委任を受けた栗須谷税理士に対し、本件調査の結果について、前記4(二)と同旨の説明をした。同税理士は、特前所得金額(売上金額から仕入れ及び必要経費の金額を控除した所得をいう。)を三〇〇万円とする修正申告ならば応じるが、同金額以上の修正申告を求めるのならば、勝手に更正してくれ、今後は、税務調査を拒否する旨を述べた。橋詰は、原告らに対し、修正申告の金額を三〇〇万円とすべき根拠について説明を求めたものの、原告らは、明確な回答をしなかった。

6(一)  橋詰は、その後、原告に対し、聴取調査に応じるように何度も電話で連絡を取ったものの、不在であったり、来署を拒絶されるなどしたため、調査を続行できなかった。橋詰は、平成六年一月二〇日、原告との間で、同月三一日に原告宅に赴き聴取調査をする旨を約束したものの、栗須谷税理士は、同日、和歌山税務署国税統括官高林克行に対し、原告は、体調が悪化しているため、今後、税務調査を拒否すること、修正申告には応じる意思がなく、更正を希望する旨を告げ、同年二月一日、原告の診断書が提出された。

(二)  橋詰は、同月三日、原告に対し、同月一四日までに、修正申告の意思の有無について、原告から連絡がない場合、更正もやむを得ない旨の方針を伝えたものの、同日までに、原告は、橋詰に対し、何の連絡もしなかった。

二  争点1(推計課税の必要性)について

一  (一) 前記一に認定のとおり、原告は、事業を営むに当たって、取引に関する帳簿等を作成しておらず、取引メモ等を作成していた外は、わずかに仕入れについての領収書を保存していた程度であって、しかも、本件調査の際には、右領収書の一部を破棄ないし紛失していた。また、橋詰から必要経費の調査を依頼された際にも、客観的な資料に基づかない一部推測に基づいた平成四年分の明細書をようやく提示し得たにすぎないのである。被告は、これらの事情から、原告の取引の状況を正確に把握し、本件係争各年分の所得金額を実額で算定することができず、推計により所得金額を算出して各更正に及んだものであって、本件において、推計の必要性はあると認められる。

(二) 証人栗須谷は、橋詰から、平成二年分ないし平成四年分の所得計算について説明を受けた際、同人に対し、店舗内の商品の粗利益が過大に見積もられていること、店舗建物等の減価償却費及び借入金の支払利息が必要経費に計上されていないことを指摘した上、再検討するように申し入れた旨を証言する。しかしながら、同証人は、原告から本件調査について委任を受けた税理士でありながら、右申入れまでの間、独自に本件係争各年分の所得金額を算定したことはなく、具体的な資料を検討したこともないのであって(証人栗須谷)、仮に、同証人から右申入れがされたとしても、それは、原告を代弁し、本件調査についての不満ないし疑問を表明するに止まるものというべきであるから、前記判断を左右するに足るものではない。

2 原告は、本件調査に違法な点がある旨を主張するので、検討する。

(一)(1)  原告は、本人尋問において、橋詰らが、平成五年六月二日、原告の承諾を受けないまま、原告の自宅及び店舗をくまなく調査し、通帳や書類等を捜索した旨を供述する。

しかしながら、原告は、前記一に認定のとおり、同日の調査において、自宅内で行われた調査に立ち会っていたにもかかわらず、調査を制止ないし抗議するなど一切していないばかりか、橋詰らにリース日報メモ等の所在等を説明したり、従業員に指示して、店舗内での調査に立ち会わせるなど、調査に一定の協力さえしているのであって、右供述は、採用の限りでない。

(2) 原告は、本人尋問において、橋詰が、和歌山税務署において、他の職員ないし来訪者の面前で、原告を罵倒したり、机を叩いた外、平成五年一〇月一三日に原告店舗を訪れた際にも、栗須谷税理士の面前で、書類で床を叩き続けるなどして、修正申告を強要した旨を供述し、証人栗須谷も、同旨の証言をする。

しかしながら、税務署職員が、他の職員や税務署への来訪者、或いは原告から委任を受けた税理士の前で、右のような異常な行動に出るというのは、容易に想定し難く、極めて不自然というより外はない。また、原告は、右のとおり、橋詰から、数回にわたり、異常な態様で修正申告を強要されたというにもかかわらず、結局、修正申告に応じないまま、任意に和歌山税務署を辞去できた旨を供述しており(原告本人)、実際にも、前記認定のとおり、修正申告の勧奨には一切応じていない。これらの事情を考慮すれば、前記供述ないし証言は、到底採用できないというべきである。

(3) なお、原告は、本件調査において、身代わりカードといった不正な書類が使用されたことを本件調査方法の違法性を根拠付ける一事情として主張するかのようであるが、証拠(証人橋詰)及び弁論の全趣旨によれば、右カードは、本件調査と全く関係がないものと認められるのであって、採用の限りでない。

(二)  右(一)で検討したことに、前記一に認定した事実関係を総合すれば、身分証明書及び質問検査章を提示した上、原告ないしその指示を受けた従業員の立会いのもと、リース日報メモ等の資料を確認し、原告の了承を得て、右資料を預かっているのであり、また、本件調査における聴取調査ないし反面調査は、その態様や回数等において、さして執拗ないし頻繁といえず、本件調査は、租税の公平かつ確実な賦課徴収のため、必要な資料の取得収集を目的とする質問検査権の行使として、社会通念上相当の限度内に止まるものと解されるから、本件調査の方法に違法な点はないというべきである。

三  争点2(推計課税の合理性)について

1  資産負債増減法について

被告主張の本件係争各年分における所得金額は、別表2の1ないし5記載のとおり、資産負債増減法によって算出されたものである。

同方法は、納税義務者の当該年における期末純資産額と期首純資産額との差額(当該年の純資産の増加額)に、調整項目加算額として生活費および家事関連費等の所得の処分に相当する金額を加えた上、調整項目減算額として、預金利息の事業所得以外の所得に係る金額及び非課税所得等に相当する金額を控除し、当該年における納税義務者の所得金額を推計する方法である。この推計方法は、納税義務者の当該年における純資産の増加分は、当該年の事業所得によって賄われたものであるとの合理的な経験則に立脚したものである上、所得の処分に相当する部分は、事業所得が充てられたものとして、これを加算し、事業所得以外の所得や非課税所得に該当する部分がある場合は、これを控除するなどの調整を施したものであって、推計の基礎となるべき各科目の金額を正確に把握し得る限り、所得の推計方法として十分な合理性を有するものということができる。

(なお、事業所得を推計によって算出する場合、いわゆる同業者比率法が用いられる場合が多いことは、当裁判所に顕著な事実であるが、同比率法は、推計方法としての客観性があり、確度が高いなどの利点がある反面、これを用いるためには、少なくとも、納税義務者の当該年分の売上金額ないし仕入金額等の全部又は主要な部分が正確に把握されている必要があると解される。前記一に認定のとおり、原告は、平成元年分以前のリース日報メモを保管しておらず、被告において、正確な売上金額を把握し難い上、仕入れや必要経費についての領収書を破棄ないし紛失してしまっており、しかも、現金仕入れが多く、反面調査によっても、正確な仕入金額を把握することは困難であったというのであるから、本件においては、同業者比率法によって合理的な推計を行うための前提条件を欠くものというべく、同法の採用は困難であったと考えられる。)

2  そこで、以下、資産負債増減法による算定の基礎となる各科目の金額について、検討する。

(一) 資産科目

(1) 当座預金科目

乙六及び弁論の全趣旨によれば、原告が、あさひ銀行和歌山支店において、別表3記載のとおり、当座預金を有していたことが認められる。

(2) 普通預金科目

ア 原告名義の預金(別表4記載1、5、7、9、11及び12)について

証拠(乙六、七、一〇、一六、一八、五一)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、標記の預金について、別表4記載のとおり(但し、同記載9の預金の昭和六三年一二月三一日残高欄を二万九二二七円と訂正する。)、普通預金を有していたことが認められる。

イ 原告名義以外の預金(別表4記載2ないし4、6、8、10、13)について

証拠(乙六、七、一〇、一七、三二、三三の1ないし3、三五、三六、三九、四四、五一、五二、証人橋詰)及び弁論の全趣旨によれば、川村やすゑ名義の預金(別表4記載2、6、8、10、13)、川村順子名義の預金(同3)及び川村智子名義の預金(同4)に係る口座につき、別表4記載のとおりの預金の残高が存在したこと、右各口座については、各名義人の住所として、原告の現在の住所地(和歌山市新生町八番一三号)又は以前の住所地(同市北出島六番地)が届け出られた上、原告名義の口座の届出印と同一の印影が届出印とされたこと、各口座の通帳や届出印に係る印鑑は、原告宅に保管されていたこと、川村やすゑは原告の母であり、原告と同居していること、同人は、昭和五五年ころまで勤務労働者として雇用された上、蜜柑の選果作業や製材加工作業、調理作業等に従事し、賃金の支払いを得ていたが、退職後の収入は、年約七〇ないし八〇万円の年金収入のみであること、川村順子は、原告の姉であり、昭和四二年一〇月二五日、富山泰宏と婚姻し、同姓に改姓した上、和歌山県有田市に居住していること、川村智子は、原告の妹であり、昭和四五年一一月七日、上野山和幸と婚姻し、同姓に改姓した上、同市に居住していること、各口座の開設は、同人らの婚姻以後であることが認められる。

そこで、まず、川村やすゑ名義の口座について検討するに、届出印は、口座の名義人を識別するためのものであって、一般に、口座の管理のために重要で、保管に留意すべきものと認識されているから、名義人ごとに特定の印影を届け出るのが通例であるところ、本件においては、口座の届出印として、原告名義の口座の銀行印が届け出られている。同人は、右認定のとおり、かつて勤務労働者として雇用され、賃金の支払いを得ており、当然、その際には、自分自身の印鑑を所持し、使用していたと推認されるのであって、自己名義の口座を開設する際、既に経済的に独立した息子(原告)の銀行印を届出印とすべき必要性は、全くない(原告は、煩瑣を避けるために届出印を同一とした旨を主張する。しかしながら、煩瑣を避けるというのみで、右の点を合理的に説明できるものではないし、また、原告は、本人尋問において、届出印を同一とした理由は、各名義人本人に聞かなければ分からない旨、右主張とその趣旨を異にする供述をしており、到底、右判断を左右するに足るものではない。)。加えて、川村やすゑ名義の口座について提出された印鑑届の筆跡が、原告名義のものに記載さた筆跡と酷似していること(乙三五、三六、三九)、同人は、退職後の収入として、年約七〇ないし八〇万円の年金収入しかなく、多数の口座を保有するのは不自然であることに鑑みれば、同人名義の口座は、原告に帰属するものと認めることができる。

また、川村順子及び川村智子名義の口座について検討するに、その届出印は、川村やすゑ名義のものと同様、原告名義の口座の銀行印が届け出られている上、右認定のとおり、同人らが、口座の開設以前に結婚して独立し、改姓の上、いずれも有田市に居住していたにもかかわらず、旧姓で口座を開設し、世帯を共にするわけでもない原告と届出住所や届出印を同じくした上、通帳を原告宅に保管するというのは、いかにも不自然というより外はない。加えて、川村順子名義の口座と川村智子名義の口座は、印鑑届が提出された日が全く同一である上、印鑑届の筆跡も酷似しており、また、原告名義の印鑑届の筆跡とも極めて類似しているのである(乙三五)。以上に検討した点によれば、川村順子及び川村智子名義の口座は、原告に帰属するものと認めることができる。

したがって、原告が、標記の預金について、別表4記載のとおり普通預金を有していたことが認められる。

(3) 定期積金科目

ア 原告名義の預金(別表5記載1、3ないし7、9、11、14、15)について

証拠(乙七ないし一〇、一三ないし一八)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、標記の預金について、別表5記載のとおり(但し、同表記載6の預金の昭和六三年一月一日残高欄を二九万円と訂正する。)、定期積金を有していたことが認められる。

イ 原告名義以外の預金(別表5記載2、8、10、12、13、16)について

証拠(乙七、一三、一七、一八、一九、三六、四四ないし四六)及び弁論の全趣旨によれば、川村やすゑ名義の預金(同表記載2、8、10、12、16)及び川村憲三名義の預金(同13)に係る口座につき、別表5記載のとおりの預金の残高が存在したこと、右各口座については、各名義人の住所として、原告の現在の住所地ないし以前の住所地が届け出られた上、原告名義の口座の届出印と同一の印影が届出印とされたこと、各口座の通帳は、原告宅に保管されていたこと、川村憲三は、原告の従兄弟であり、昭和二五年ころから昭和三六年ころまでの間、原告と同居した外、原告宅に居住したことはないことが認められる。

右認定の事実によれば、川村やすゑ名義の口座のみならず、川村憲三名義の口座についても、前記(2)イに検討したところが妥当するというべきである。加えて、同人名義の口座については、提出された印鑑届の筆跡が、原告名義の口座の印鑑届に記載された筆跡と酷似しているのであって(乙三六ないし三九、四二ないし四六)、これらの事情を総合考慮すれば、川村やすゑ及び川村憲三名義の口座は、原告に帰属するものと認められる。

したがって、原告が、標記の預金について、別表5記載のとおり、定期積金を有していたことが認められる。

(4) 定期預金科目

ア 原告名義の預金(別表6記載1、6、8、10、12ないし14、20、22、25、26、28)について

証拠(乙六、七、一〇ないし一三、一五、一六ないし一九、五一)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、標記の預金について、別表6記載のとおり、定期預金を有していたことが認められる。

イ 原告名義以外の預金(別表6記載2ないし5、7、9、11、15ないし18、21、23、24、27、29)について

証拠(乙六、七、一〇、一三、一六ないし一九、二〇の1ないし7、二一、三二、三三の1ないし3、三五、三六、四三、四五、四六、五二)及び弁論の全趣旨によれば、川村やすゑ名義の預金(同表記載2、7、9、11、15、21、23、27、29)、川村順子名義の預金(同13、16)、川村智子名義の預金(同4、17)、川村容子名義の預金(同5、18)及び川村憲三名義の預金(同二四)に係る口座については、別表6記載のとおりの預金の残高が存在したこと、右各口座については、各名義人の住所として、原告の現在の住所地ないし以前の住所地が届け出られた上、原告名義の口座の届出印と同一の印影が届出印とされたこと、各口座の通帳は、原告宅に保管されていたこと、あさひ銀行和歌山支店における定期預金の解約手続は、原告名義の口座のみならず、川村やすゑ名義のものも、原告が行っていたこと、川村容子は、原告の姉であり、昭和三九年一一月二五日、宮本相次郎と婚姻し、同姓に改姓した上、和歌山県有田市に居住していること、あさひ銀行和歌山支店においては、平成二年四月一八日付けで、原告名義の定期預金計二四四万三一六〇円、川村やすゑ名義の定期預金計八六〇万七二一三円、川村容子名義の定期預金三〇〇万円、川村順子名義の定期預金一〇〇万円及び川村智子名義の定期預金一〇〇万円が解約されて、合計一六六〇万七一四五円(利息五五万六七七二円を含む。)が払い戻された上、原告名義の定期預金六〇三万円、川村やすゑ名義の定期預金五〇〇万円、川村容子名義の定期預金二五〇万円及び川村憲三名義の定期預金三〇九万円の合計一六六二万円が新規に預け入れられたこと、同年六月七日付けで、川村憲三名義の右定期預金が解約されて払い戻された上、原告名義の定期預金三〇九万円が預け入れられたこと、きのくに信用金庫宮支店において、同年九月三日付けで、原告名義の定期預金計九九万四一五九円、川村やすゑ名義の定期預金六〇万円及び川村憲三名義の定期預金三七万八二一八円が解約されて、原告名義の定期預金二〇〇万円が新規に預け入れられたことが認められる。

右認定の事実によれば、これら口座の各入出金は、同一の資金が原告名義の口座と川村やすゑら名義の口座との間で預け替えられていたものと認めるのが相当であり、これらの口座は同一人に帰属すると認められるところ、前記(2)イに検討した点は、川村やすゑ、川村順子、川村智子及び川村憲三名義の口座のみならず、川村容子名義の口座についてもそのまま妥当する上、口座の解約手続を原告が担当していたこと等に照らせば、各口座は、原告に帰属すのものと認められる。

したがって、原告が、標記の預金について、別表6記載のとおり、定期預金を有していたことが認められる。

(5) 有価証券科目

ア 原告名義の取引口座(別表7記載1、3、5、7、9)について

証拠(乙一ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、標記の取引口座について、別表7記載のとおり、有価証券を有していたことが認められる。

イ 川村やすゑ名義の取引口座(別表7記載2、4、6、8、10)について

証拠(乙一ないし五、四七ないし五〇、五三、五四)及び弁論の全趣旨によれば、右名義人の口座には、別表7記載のとおりの残高が存在したこと、右口座については、名義人の住所として、原告の現在の住所地ないし以前の住所地が届け出られた上、原告名義の口座の届出印と同一の印影が届出印とされたこと、平成四年一二月二五日、新日本証券和歌山支店の川村やすゑ名義の口座において、ライフサイエンスポートフォリオ銘柄の債券が売却されるとともに、代金二六三万三十三四三円が出金された上、同支店の原告名義の口座に同額の金員が入金されていること、日興證券和歌山支店の川村やすゑ名義の口座において、平成元年一一月二四日、ビッグウェーブ八七-一が解約された上、同月二九日、代金一〇六万三二八八円が出金されるとともに、同支店の原告名義の口座に一〇六万円が入金された上、セクター八九一一が購入されたことが認められる。

右認定の事実によれば、川村やすゑ名義の口座について、前記(2)イに検討した点がそのまま妥当する上、右認定に係る取引ないし入出金の状況に照らせば、原告が、川村やすゑ名義の債券等を自由に売却ないし解約し、当該代金をもって、原告名義で新規に債券等を購入していたことが認められるのであって、川村やすゑ名義の口座は、原告に帰属するものと認められる。

したがって、原告が、標記の取引口座について、別表7記載のとおり、有価証券を有していたことが認められる。

(6) 国債科目

証拠(乙七、三六)及び弁論の全趣旨によれば、別表8記載の川村やすゑ名義の口座につき、同記載のとおりの残高があったこと、右口座の名義人の住所として、原告の現在の住所地が届け出られた上、原告名義の各種預金口座の届出印と同一の印影が届出印とされたことが認められるのであって、右口座は、前記(2)イに検討したとおり、原告に帰属するものと認められる。

したがって、原告が、別表8記載のとおり、国債を有していたことが認められる。

(7) 土地・建物科目

弁論の全趣旨によれば、原告は、平成二年ころ、和歌山市杭ノ瀬字徳江一八三番地の二二の土地を、代金二三七〇万円で購入したことが認められる。

(8) 車両科目

弁論の全趣旨によれば、原告は、事業に使用する車両を、昭和六二年一月一七〇万円、平成元年一月九〇万円及び平成三年一月一二〇万円でそれぞれ購入しており、その未償却残高は、別表9記載のとおりと認められる。

(9) 商品科目

証拠(乙三四の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、本件係争各年分の期首及び期末の商品の棚卸高は、別表2の1ないし5記載のとおりと認められる。

なお、原告は、原告店舗の建物及び什器備品、従業員用の社宅並びにリース用の電気冷蔵庫及びテレビは、事業用の資産であるにもかかわらず、資産科目に計上されていない旨を主張するが、右建物等の取得価額や取得の経緯等について、具体的な主張を何らしておらず、これを裏付けるに足る証拠もないのであって、本件においては、右主張に係る資産はないものとして扱うより外はない。

(二) 負債科目

(1) 買掛金科目

弁論の全趣旨によれば、原告の仕入先に対する買掛金の残高は、別表10記載のとおりと認められる。

(2) 借入金科目

証拠(乙六)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、あさひ銀行和歌山支店から証書貸付によって借入れをし、その残高は、別表2の1ないし5記載のとおりであることが認められる。

(三) 調整項目加算額

(1) 生活費科目

証拠(乙二四ないし二八)及び弁論の全趣旨によれば、本件係争各年分における原告の世帯人員は二人であり、総務庁統計局発行の家計調査年報に基づき算定した標準消費支出額は、別表11記載のとおりと認められる。

右年報は、統計法二条所定の指定統計(政府や地方公共団体が、自ら作成し又は他に委託して作成した統計であって、総務庁長官が指定し、その旨を公示した統計をいう。)とされている家計調査の結果に基づき刊行されているものであって、その調査結果は、調査対象とされた世帯の標準的な家計収支等に関する統計として、信頼性が高いものとされていること(公知の事実)によれば、原告の本件係争各年分における生活費を、右標準消費支出額とすることに合理性はある。

したがって、別表11記載の生活費が調整項目加算額となる。

(2) 住宅金融公庫返済科目

弁論の全趣旨によれば、原告が、住宅金融公庫から借入れをし、その返済額は、別表12の1ないし5記載のとおりであることが認められる。

(3) 所得税科目

弁論の全趣旨によれば、原告が、別表13記載のとおり、所得税を納付したことが認められる。

(4) 住民税科目

証拠(乙二九)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表14記載のとおり、住民税を納付したことが認められる。

(5) 固定資産税科目

証拠(乙二九)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表15記載のとおり、固定資産税を納付したことが認められる。

(6) 社会保険料科目

証拠(乙三四の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表2の1ないし5記載のとおり、社会保険料を支払ったことが認められる。

(7) 姓名保険料科目

証拠(乙三四の1ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表2の1ないし5記載のとおり、生命保険料を支払ったことが認められる。

(8) 支払利息科目

証拠(乙六)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表16の1ないし5記載のとおり、事業に関係しない借入金の利息(事業のための必要経費に当たらない利息)を支払ったことが認められる。

(9) 有価証券売買損科目

証拠(乙一ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表17記載のとおり、有価証券売買に係る損失を受けたことが認められる。

(10) 不明出金科目

弁論の全趣旨によれば、原告が、別表18記載のとおり、平成三年四月一〇日合計七〇〇万円、同年六月二四日八〇〇万円及び平成四年六月二九日三〇〇万円の預金を払い戻したこと、払い戻された金員の使途は不明であることが認められる。

右のとおり、多額の金員が一時に払い戻されていることによれば、払い戻された金員が必要経費等に充てられたとは通常考え難く、他に特段の事情の認められない本件においては、右金員をもって、所得の処分に相当する事由に係るものであると認めるより外はないのであり、右金員は、調整項目加算額に計上すべきものである。

(四) 調整項目減算額

(1) 預金利息等科目

証拠(乙一ないし一九、五一、五二)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、前記(一)(2)ないし(6)の預金等について、別表一九記載のとおり、預金等に係る利息ないし配当金の支払いを受けたことが認められる。

(2) 有価証券売買益科目

証拠(乙一ないし五)及び弁論の全趣旨によれば、原告が、別表17記載のとおり、有価証券売買に係る利益を得ていたことが認められる。

(3) 年金収入科目

弁論の全趣旨によれば、川村やすゑが、別表20記載のとおり、国民年金の支払いを受けていたと認められるところ、前記認定のとおり、同人は原告宅に居住しており、その収入が先に認定した各科目に係る支出に充てられた可能性があることを考慮すれば、右金員は、事業所得以外の収入として、調整項目減算額に計上すべきものである。

(4) 店主借科目

ア 弁論の全趣旨によれば、原告が、別表21記載のとおり、各口座に金員を預け入れたこと、右預金の原資は、不明であることが認められる。

新規になされた預金の原資が明らかでない場合、当該預金は、資産負債増減法による推計に当たっては、事業所得以外の資金によるものとして扱うより外はなく、右預金は、調整項目減算額に計上すべきものである。

イ 原告は、第一生命保険から、生命保険契約の払戻金として振込みを受けた金額について、店主借科目に計上されていない旨を主張する。

証拠(甲一〇の1、乙五五)及び弁論の全趣旨によれば、平成三年九月二〇日、第一生命保険から、紀陽銀行東和歌山支店の原告名義の普通預金口座に生命保険契約の払戻金合計一六四万八五〇四円が振り込まれたこと、原告は、同日、同支店扱いで、第一勧業銀行有楽町支店における第一生命保険名義の当座預金に対し、一五〇万円を振り込んだことが認められる。

そうすると、右入出金の差額一四万八五〇四円は、事業所得以外の所得に係るものとして、調整項目減算額に計上すべきものである。

なお、原告は、土地及び建物購入の際の借入れに係る利息を調整項目減算額に計上すべき旨を主張するが、右借入れの金額やその経緯、利息の支払状況等について、何ら具体的主張をしておらず、また、これを裏付けるに足りる証拠もない。本件においては、右利息の支払いがないものと認めるのが相当である。

3  以上に認定した資産、負債、調整項目加算額及び同減算額を基礎として、資産負債増減法により、原告の本件係争各年分の事業所得を算出すると、次のとおりとなる。

(一) 昭和六三年分 九四一万三〇二九円

前記2(一)(2)ア及び同(3)に判示のとおり、別表4及び5記載の預金残高欄の一部を訂正したことに伴い、普通預金科目の昭和六三年一二月三一日残高の合計は二二万六三七八円に、定期預金の昭和六三年一月一日残高の合計は一八〇万四五四六円となり、これを基礎として算出した事業所得の金額は、九四三万五〇二九円となるが、被告主張額の限度で認定することとした。

(二) 平成元年分 一九六三万〇四七四円

前記2(一)(2)アに判示のとおり、別表4記載の預金残高欄の一部を訂正したことに伴い、普通預金科目の昭和六三年一二月三一日残高の合計は右(一)のとおりとなり、これを基礎として算出した事業所得の金額は、標記の金額となる。

(三) 平成二年分 二二〇七万九七四八円

なお、普通預金科目の平成二年一月一日残高は、平成元年一二月三一日残高と同額の三三七万二八二五円であり、これを基礎として算出した事業所得の金額は、標記の金額となる(別表2の3における被告主張額のうち、普通預金の平成二年一月一日残高欄は、右金額に訂正されるべきである。)

(四) 平成三年分 二二六八万四九六一円

前記2(四)(4)イに判示のとおり、別表21記載の金額に加え、一四万八五〇四円を調整項目減算額に計上し、これを基礎として算出した事業所得の金額は、標記の金額となる。

(五) 平成四年分 一四二六万〇三九五円

四  争点3(実額反証)について

原告は、実額反証として、事業所得を実額で算出した結果は、別表B記載のとおりであると主張するが、右算出の過程について、何ら具体的主張をせず、また、これを裏付けるに足りる証拠は皆無である。したがって、右主張は、採用の限りでない。

五  争点4(重加算税賦課要件の存否)について

原告は、前記一に認定のとおり、本件係争各年分の確定申告の際、現金仕入れの一部を除外するなどして仕入金額を圧縮し、同金額をもとに過少な売上金額を計上した上、必要経費についても、領収書等の取引資料に基づかないまま恣意的に計上して、収支内訳書を作成し、税務署の担当職員に提出した。このような方法によって作成された収支内訳書が自己の事業実態を反映したものではなく、算出された所得金額も正確でない旨、原告自身が十分認識していたことは、右に見た収支内訳書の作成方法自体から容易に推認し得るところである。また、現実にも、原告の確定申告額は、前記三3のとおり算出された事業所得の金額の約六ないし一一パーセントにすぎない額であって、その圧縮割合の大きさに照らせば、原告は、単に不正確というに止まらず、殊更過少な所得金額を計上した内容虚偽の収支内訳書を提出したものと認められる。原告は、その上、実母等の親族の名義を用いて預金ないし取引口座を利用することによって、預金の所在や有価証券その他の取引の事実を隠蔽したのであって、これらの事情を総合考慮すれば、原告のした各申告には、国税通則法六八条一項所定の重加算税賦課要件があると認められる。

六  争点5(期間制限)について

前記五に検討した点によれば、原告は、本件係争各年分の確定申告の際、不正の行為によりその税額を免れたものというべきであって、被告のした各更正は、各申告の法定申告期限の日(最も申告期限の早い昭和六三年分の申告で平成元年三月一五日)から、それぞれ七年を経過した日まで行うことができると解される(国税通則法七〇条五項一号)。

したがって、平成六年二月二五日にされた各更正に、同法所定の期間制限に反した違法はない。

七  本件各処分の適法性に関するまとめ

弁論の全趣旨によれば、本件係争各年分において、原告は、事業所得以外の所得を得なかったと認められるから、原告の総所得金額は、前記三3認定のとおりとなる。被告のした各更正に係る総所得金額は、いずれも右のとおり算出された総所得金額を超えないものであって、本件各処分は、いずれも適法である。

第四結論

よって、原告の請求は、いずれも理由がなく、これを棄却すべきである(なお、原告申立てに係る文書提出命令(平成九年(モ)第四六六号、同第一〇九五号)については、証拠調べの必要性を認めることができないから、これを却下する。)。

(裁判長裁判官 東畑良雄 裁判官 大垣貴靖 裁判官 高島義行)

別表A

<省略>

別表B

各年分所得金額一覧表

<省略>

別表1

原告の本件係争各年分の総所得金額

<省略>

別表2-1

昭和63年分の事業所得の金額の計算

<省略>

別表2-2

平成元年分の事業所得の金額の計算

<省略>

別表2-3

平成2年分の事業所得の金額の計算

<省略>

別表2-4

平成3年分の事業所得の金額の計算

<省略>

別表2-5

平成4年分の事業所得の金額の計算

<省略>

別表3

当座預金残高表

<省略>

別表4

普通預金残高表

<省略>

別表5

定期預金残高表

<省略>

別表6

定期預金残高表

<省略>

定期預金残高表

<省略>

別表7

有価証券残高表

<省略>

別表8

国債残高表

<省略>

別表9

車両明細表

<省略>

別表10

買掛金残高表

<省略>

別表11

生活費算出表

<省略>

別表12-1

昭和63年分住宅金融公庫返済明細表

<省略>

別表12-2

平成元年分住宅金融公庫返済明細表

<省略>

別表12-3

平成2年分住宅金融公庫返済明細表

<省略>

別表12-4

平成3年分住宅金融公庫返済明細表

<省略>

別表12-5

平成4年分住宅金融公庫返済明細表

<省略>

別表13

所得税の納付状況

<省略>

別表14

住民税の納付状況

<省略>

別表15

固定資産税の納付状況

<省略>

別表16-1

平成2年分支払利息明細表

<省略>

別表16-2

平成3年分支払利息明細表

<省略>

別表16-3

平成4年分支払利息明細表

<省略>

別表17

有価証券売買損益明細表

<省略>

別表18

不明金明細表

<省略>

別表19

預金利息等明細表(総括表)

<省略>

別表19-1

普通預金利息明細表

<省略>

別表19-2

定期預金利息明細表

<省略>

別表19-3

定期預金利息明細表

<省略>

定期預金利息明細表

<省略>

別表19-4

国債利息明細表

<省略>

別表19-5

有価証券配当等明細表

<省略>

別表20

国民年金の内訳

<省略>

別表21

店主借明細表

<省略>

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